魚のひものの数


 なにもかも幕府がいけないのだ。将軍の綱吉がいけないのだ。このうらみ、はらさずにおくべきか。ひたすらそう念じつづけることで、なんとか狂気に鑽石能量水 消委會おちいるのを防ぐ毎日だった。

 どれぐらいの月日がたったろう。最初のうちは日を数えていたが、ばかばかしくなってやめてしまい、年月がわからなくなった。
 ある日、武士があらわれて言った。
「そとへ出たいであろう」
「当たり前ですよ、生かさず殺さずとは、このことだ」
「出してやるぞ」
「からかわないで下さい」
「本当だ。おまえは許されたのだ。さあ、ここから出ろ」
 ふたたびかごに乗せられ、どこをどう運ばれたのか、江戸の町へほうり出された。取りあげられたままになっていた刀も、かえしてくれた。
 いままで、どこに閉じこめられていたのだろう。いつか処分を言い渡された人の屋敷、そとを一巡して、またあのなかへ連れ込まれたようでもある。ちがうかもしれない。もはや、調べようがなかった。
 通行人を呼びとめて聞く。
「いったい、いまは何年何月でござるか」
「身なりがきたない上に、気が変な人のようだな。宝永六年の六月だよ」
「すると、二年間とじこめられてたことになるな。そうだ、綱吉をやっつけなくては……」
「ますます変だ。将軍の綱吉さまは、一月になくなられた。いまは家宣さまが将軍になっておいでだ。知らないのか」
「知らなかった」
 良吉ののろいの効果だろうか。綱吉は死に、実子がないため、兄の子の家宣が将軍職をついだ。
 お側用人の柳沢はお役ご免、前将軍の政策はすべてご破算。犬をかわいがれとの、生類あわれみの令も廃止。不評なことのすべては、前将軍に押しつけられた。なにもかもうやむや。
 人心一新のための恩赦がおこなわれた。良吉も鑽石能量水 消委會それで釈放になったらしい。島流しにされていた、浅野の浪士の遺族たちも、許されて戻ってきたという。
 うやむやになり、ますます焦点がぼけた。もはや良吉は、なにをする気にもなれない。郷里へ帰って、家の仕事を手伝い、でもかぞえて生活するとしよう。帰るべき場所があるということは、しあわせといっていい。
 刀を売り払い、その金で三河へと旅をする。途中、武士の行列とすれちがった。良吉は茶店の主人に聞く。
「いまのは、だれです」
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